当科の診療について
当科では白内障、緑内障、網膜動静脈閉塞など網膜の血管性疾患、加齢黄斑変性を代表とする黄斑部疾患、糖尿病網膜症や網膜剥離などの網膜硝子体疾患の診断と治療を積極的に取り組んでいます。手術は白内障手術や網膜硝子体手術、緑内障手術などを行っており、黄斑部や網膜の新生血管の増殖を抑制する抗VEGF薬治療(硝子体内注射)も行っています。
埼玉医科大学病院の各分野の専門の医師による手術も行っております。
白内障手術は、日帰りまたは、1泊の入院をお選びできます。
網膜硝子体手術は、疾患に応じて最短1泊2日から3泊4日(網膜剥離の場合は約1週間)の入院で行っています。手術時間は、局所麻酔にて約30~90分程度で行っています。
検査においては、国家資格である視能訓練士(ORT)を配し、精度の高い視機能検査を行っていますので、正確な術前診断と適切な治療を可能としております。
白内障について
目の中のレンズ(水晶体)が濁って見づらくなってしまう病気です。
ピント合わせの機能をする水晶体は、若い時はゼリーのように柔らかく透き通っていますが、40歳を過ぎた頃から徐々に硬さを増し、さらに60歳にかけて次第に黄色くあるいは白く色づいてきます。加齢による水晶体の硬化でピント調整がうまくできなくなった状態が老視(老眼)、透明性が低下し混濁してくるのが白内障です。
症状
- 視界が全体的にかすむ
- 視力が低下する
- 光をまぶしく感じる
- 暗いときと明るいときで見え方が違う など
見え方の例
正常
白内障
治療
白内障の治療は、病状の進行具合によって異なります。日常生活に支障がない初期の段階では点眼治療もありますが、水晶体が元に戻るわけではありませんので、見え方に支障を感じるようであれば手術治療を考えます。
手術は麻酔薬を点眼して行います。目の周囲に麻酔薬の注射を追加することもありますが、強い痛みを感じることはありません。目の表面をほんの数ミリ切開し、濁った水晶体を超音波で砕きながら取り除き、そこへ人工の水晶体である眼内レンズを挿入します。手術時間は20分程度で、日帰りまたは1 泊の入院で行える手術です。詳しくは医師に聞いてください。
手術後のケアはとても大切です。定期的に診察を受けて、処方された点眼薬を正しく使うことで炎症や感染を防ぎます。
眼内レンズは生涯にわたり安定した固定性と透明性を維持しますので、交換や再手術の必要もありません。また、ピント調節機能はありませんので、手術後もメガネなどによる矯正が必要な場合があります。挿入する眼内レンズについては医師と相談して決めます。
眼内レンズには単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズがあります。単焦点眼内レンズには保険診療で行うことができます。一方で多焦点眼内レンズは種類によって選定療養か自由診療で受けることができますが、当院では単焦点眼内レンズのみを取り扱っております。
しかし近年、単焦点眼内レンズの中でも焦点深度を広げることで広い明視域を確保することのできる眼内レンズも登場し、当院でも採用しております。
また手術前に見え方は様々で、老眼鏡をつかっている方や眼鏡を使わずにTVも新聞も見える方などいらっしゃいます。一般的に良好な遠方視力を得るために、乱視矯正は不可欠であり当院ではより正確に乱視矯正を行うことのできるガイダンスシステムAlcon社製Verionを導入しております。しかしながら、中には乱視をうまく活用することで広い明視域を得ているかたもいらっしゃいます。どのような眼内レンズがよいのか、乱視矯正の必要性などお気軽にご相談ください。また眼内レンズは特有な見え方(ハローグレアなど)を感じられることがあります。その程度は眼内レンズの種類や個人で変わってきます。特にこれは多焦点眼内レンズに特に多いと言われております。
アルコン社ベリオン 白内障イメージガイドシステム
60歳代になったら「目の病気がないか」、病院で定期的に診察を受けてみてはいかがですか。
また当院では難症例白内障手術も施行しております。
落屑症候群やアトピー性皮膚炎、網膜色素変性症や代謝異常疾患、外傷などを理由に水晶体を支えるチン小帯が脆弱なために水晶体嚢温存が難しい場合があります。こう言った場合には通常の手術方法では眼内レンズを挿入することができません。硝子体手術と眼内レンズ強膜内固定術を施行することで、水晶体嚢が無くても眼内レンズを挿入固定することが可能です。
網膜硝子体手術について
網膜硝子体手術とは、網膜の病気を目の内側から治す方法です。白目(強膜)に小さな穴を3~4つ程あけて、細い器具を目の中に入れて治療を行う非常に繊細な手術です。目の中の透明でゼリー状の組織である硝子体を切除し、空気やガスを注入して、網膜剥離を治したり、糖尿病網膜症などで起こる出血を取り除くことで、光が目の奥までとどくようにしたりします。また、網膜の上に張った増殖膜の切除や、黄斑上膜、黄斑円孔という疾患も硝子体手術で治療します。患者さんの年齢によっては、白内障手術を同時に行う場合もあります。
網膜剥離の手術の例
近年では小切開手術が主流となりMicro Incision Vitrectomy Surgery(MIVS)と呼ばれる低侵襲硝子体手術が主流となっております。MIVSの大部分は25ゲージと呼ばれる約0.5mmの傷で手術を行われていますが、当院では27ゲージシステムと呼ばれる約0.4mmの傷で手術を行うことが可能です。しかしながら、27ゲージシステムでは器具の径が小さいことから硝子体切除効率が悪いことが問題でした。当院では最新のAlcon社製20000回転カッターを導入しており、低侵襲、高効率に硝子体手術を行うことが可能です。
コンステレーション®ビジョンシステム/
ハイパービット™デュアルブレード ビトレクトミープローブ ベベル
適応
硝子体手術を必要とする眼疾患は多くありますが、そのうちの代表的な疾患である糖尿病網膜症、黄斑前膜、黄斑円孔、裂孔原性網膜剥離についてご紹介いたします。
1. 糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症の一つです。糖尿病の罹患歴が長かったり、血糖コントロールが不良だと、網膜血管の閉塞が生じ、その結果血管瘤や新生血管が作られることで出血を起こしたり、時に血管新生緑内障を来たします。また増殖膜ができることで網膜剥離を生じたり、糖尿病黄斑浮腫や黄斑前膜を形成することで不可逆的な視力低下を来すこともあります。網膜症の治療は、主にレーザー治療、硝子体注射、硝子体手術と様々な方法があり、病状によって適切なものを組み合わせて施行する必要があります。これら一連の治療をすべて行える医療施設は数が限られ、当院はそのうちのひとつとなっております。
糖尿病と言われたことがある場合は、眼科への定期受診をおすすめします。
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糖尿病網膜症
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硝子体出血を伴う糖尿病網膜症
2. 黄斑前膜(黄斑上膜)、黄斑円孔
黄斑とは網膜の中心にあり、物を見る上で最も大事な場所です。本来であれば網膜は層状構造をなして、真ん中に陥凹(中心窩)を認めます。通常網膜は硝子体と呼ばれるゲルが付着していますが、加齢に伴い収縮し網膜面から外れていきます。この減少を後部硝子体剥離と呼びますが、この一連の生理現象の仮定で、黄斑部に膜が残ってしまい肥厚していった物が(特発性)黄斑前膜とよばれ、硝子体による黄斑部の牽引により穴が開いてしまった物を特発性黄斑円孔と呼びます。両者とも歪みや見えづらさ感じます。治療法は手術しかなく、放置することで歪みや視力低下は進行することが多いです。
黄斑前膜の方の中には軽度なために自覚症状もわずかな方もいらっしゃいますので、そういった場合には経過観察することもありますが、近年の硝子体手術では低侵襲になってきたこと、最近の研究で進行して網膜の深い部位まで網膜のしわが寄ってしまうと術後の歪みが強くなることもわかってきているので比較的病気が軽い内に手術を勧めることが増えてきています。
またこれら一連の疾患にはバリエーションも多く、続発性の黄斑前膜や、黄斑前膜に伴う偽黄斑円孔や牽引姓黄斑円孔、変性をともなう黄斑円孔や分層黄斑円孔、黄斑牽引症候群などがあります。これらに疾患では最適な術式が異なるとされていますので、当院では網膜疾患の専門医が最適な術式を評価し施行しております。
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黄斑前膜
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黄斑円孔
3. 裂孔原性網膜剥離
網膜剥離とは感覚網膜と呼ばれるカメラで言うフィルムがその土台である網膜色素上皮から分離した状態を指します。網膜剥離の原因は裂孔原性、漿液性、牽引性の3つの種類からなります。なかでも裂孔原性網膜剥離は年間1万人に1人程度が発症すると言われており、放置することで失明をしてしまう病気です。若年者から高齢者まで様々な年代で発症することが知られていますが、若年者では網膜の萎縮や外傷によることが多く、また高齢者では加齢に伴う後部硝子体剥離によって生じた網膜裂孔が原因であることが多いとされています。
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裂孔原性網膜剥離
症状としては、
- 目の前を蚊のような黒く動くものがチラチラ見える(飛蚊症)
- 眼の中でピカピカと光って見える
- 見ているものの一部がみえない(視野欠損・視野異常)
- 見たいものがはっきりみえない(視力低下)
網膜剥離が網膜全体に広がると、視野の欠損、急激な視力低下を自覚します。さらには、失明にいたることもあります。
網膜剥離の治療法には、眼外から行う網膜復位術(バックリング手術)と眼内から行う硝子体手術の2種類があります。本邦では若年者ではバックリング手術を選択することが一般的に多く、高齢者では硝子体手術を行うことが一般的です。しかし非常に難治の網膜剥離ではバックリング手術と硝子体手術を併用することもあります。どちらの術式も諸回復医率は約90%と言われておりますが、手術方法が進歩した現在でもなお難治な疾患です。
また、網膜に穴があいているだけの段階であれば、レーザーによって網膜剥離への進行を止めることが可能な場合もあります。網膜剥離は早期発見が大切です。飛蚊症や、視野が狭いと感じたら、すぐに眼科へ受診して下さい。
なお当院では若年者へのバックリング単独手術は行っておりませんので、バックリング手術が適応の場合には埼玉医科大学病院へ紹介させていただきます。
硝子体手術は当院で施行可能となっております。手術までの期間入院での安静を要したり、1-2週間程度の入院を要することがほとんどですので、ご来院の際には公共機関をご利用し受診するようおねがいいたします。
緑内障手術について
緑内障は世界における失明の重大な原因となっています。緑内障は一般的には眼圧が上昇することで、視神経が障害され視野障害を来すと考えられており、一度失われた視野は回復することはできません。その治療法は点眼、レーザー治療、手術がありますが、いずれも眼圧を下げることが目的であり、現在の視野を維持することが目的となっております。
しかしながら日本人の緑内障は正常眼圧緑内障と呼ばれる一見眼圧が正常にもかかわらず視野障害が進む病型が多いと言われております。正常眼圧緑内障では眼圧による機械的障害だけではなく、眼血流による循環障害の影響があると言われています。眼循環に対する治療介入は困難な場合が多く、眼圧が高い緑内障と同様に眼圧を下げることが一般的な治療とされています。
また緑内障患者様はごく初期ではご自身の視野の異常を自覚できず、視野異常を自覚下頃には非常に進行してしまっている場合がございます。当院でハンフリー静的視野計検査を用いて視野検査を行っています。この検査は、最初は慣れが必要で検査結果が大きくばらつきが起こることが知られております。ある程度結果が安定するまでに4-5回は検査を受けて頂く必要があるので当院では、初めて緑内障と診断された患者様には4ヶ月毎の視野検査を勧めさせて頂いております。視野検査の結果が悪化する場合には治療を変更、強化していく必要があります。また視野検査が上手になられた患者様は6ヶ月に1回、もしくは1年に1回と回数を減らしていくことが可能です。
見え方の例
正常
緑内障
治療
緑内障手術は大きく3種類に分かれますがいずれも眼圧を下げることを目的としております。1つは眼房水の産生を抑制する手術(毛様体破壊術)、2つめは房水流出路抵抗を下げる手術(流出路再建術)、3つめは房水を眼外に濾過する手術(濾過手術)です。
本邦では濾過手術がすべての緑内障に行われおり、早期の症例では流出路再建術、末期の症例では毛様体破壊術を行っています。
流出路再建術(トラベクロトミー)
別名、線維柱帯切開術とも呼ばれます。房水は毛様体から産生され隅角から線維柱帯を通ってシュレム管へと排出されます。この線維柱帯を物理的に切開することで房水排出抵抗を軽減し、眼圧下降を得ることができます。
適応:比較的早期の緑内障が対象となります。
前房出血、デスメ膜剥離、一過性眼圧上昇などが生じる場合があります。出血が遷延する場合や、眼圧下降が得られない場合には追加手術が必要になる場合があります。(その他のリスクについては担当医におたずねください)
切開方法によって金属プローベを使用する古典的線維柱帯切開術と、糸を使用するスーチャートラベクロトミー、フックを使用し眼内から切開するマイクロフックロトミーなどがあります。当院では白内障手術と同時にマイクロフックロトミーを行うことも可能です。早期緑内障の方で白内障手術を受ける方はマイクロフックロトミーの同時手術を受けることで眼圧下降や点眼本数を減らすことが可能となる場合があります。
濾過手術(トラベクレクトミー)
線維柱帯切開術とは異なり、強膜(白目)の一部と一緒に線維柱帯の一部を切除し眼外に房水を逃がす手術です。眼圧下降効果が高い一方で、過剰な低眼圧や創傷治癒による眼圧再上昇、感染症などの術後管理や合併症が課題としてあります。
適応:全ての緑内障の病型に適応となります
当院では古典トラベクレクトミーに加えて、特殊な金属でできているチューブを挿入して房水を眼外に逃がすExpress手術を行っています。Expressは濾過量を安定させることで周術期の合併症を軽減する一方で、古典的手術と同等の眼圧下降効果を得られると考えられています。しかし、金属アレルギーがある方や一部の緑内障では入れることができないことがありますので、詳細は担当医にご相談ください。
アルコン社のExpress™
その他の手術
そのほかに当院では閉塞隅角緑内障に対するレーザー光彩切開術や、レーザー隅角形成術を行うことも可能です。
加齢黄斑変性について
加齢黄斑変性(AMD)も近年増えている失明原因の一つです。
黄斑部と呼ばれる物を見る中心部分に新生血管と呼ばれる異常血管が産生されることで、出血や漿液性網膜剥離を生じ、放置することで線維瘢痕変化や網脈絡膜萎縮を来たし非可逆的な視力障害を来します。以前はレーザー治療しか治療法がなく、視力の改善と維持は困難でした。しかし、近年血管内皮増殖因子(VEGF)をおさえることで、新生血管の活動性を抑制し、視力改善が得ることができるとわかっており、本邦では眼科用製剤として4種類の抗VEGF薬が承認されています。
加齢黄斑変性は最新の知見では大きく4種類に分かれると考えられています。日本人に最も多いポリーブ状脈絡膜新生血管(PCV)のほかに典型加齢黄斑変性(typicalAMD)、網膜内血管腫増殖(RAP)が主たる病型ですが、近年中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)の特徴を有したパキコロイド新生血管(PNV)という概念が新たに加わっています。
いずれの疾患も基本的な治療法は抗VEGFの硝子体注射ですが、病型に応じて光線力学療法(PDT)を併用したり、異なる種類の抗VEGF薬を使い分けることで良好な視力維持が保たれるよう努めています。
投与スケジュールはいずれの疾患も月1回投与を3ケ月連続で行う導入期投与を行った後に、徐々に最大4ヶ月間まで投与間隔を延ばしていくTreat and Extend(TAE投与)治療を推奨しております。高額医療費による補助が受けられますが、依然として高額な治療であるため、患者様毎の状況や希望に応じて、必要時投与(PRN投与)や導入期後に再発するまでの間隔を把握し行うmodified TAE投与を選択することも可能です。また重傷の方には毎月投与や固定間隔投与や新薬であるブロルシズマブを施行することも可能であり、埼玉医科大学病院と連携しレスキュー治療と呼ばれる追加治療を選択することも可能です。 一度専門医の診察を受けて頂き治療方針をご相談ください。
見え方の例
真ん中が歪んで見える、黒く見えるなど
治療
光線力学療法
抗VEGF薬硝子体注射
硝子体注射は外来で行うことができ日帰りで施行できます。
年度別手術実績
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
---|---|---|---|
白内障 | 363 | 501 | 569 |
硝子体 | 30 | 54 | 94 |
緑内障 | 2 | 18 | 23 |
その他 | 118 | 125 | 115 |
合計 | 513 | 698 | 801 |